Pharmaceutical Journal 

Waku-Waku Science

 科学の世界にいるからだろうか、世の中の何気ない現象もその裏のことを考えるとなぜだかわくわくしてしまう時がある。最近のそんな事象を二つ。前回に引き続き今回も注釈つき:話し方:講義風。内容:かなり専門的(^^;。
 人間の肺のガス交換する部分の表面積は広げるとテニスコートくらいになるんです。その表面には薄い粘液層があって、その量は?って言うと、肺全体をかき集めてもワイングラス一杯分くらい。つまり肺の表面はワイングラス一杯の水をテニスコート一面に一様に広げたイメージ<滅茶苦茶薄い水の層だよね(^^)。じゃあ、その水はどこから来るの?というのが最初の『わくわく』。そしたら、どうやら血管からしみ出してきているということがわかったんです。でもやたらにしみ出しても困るので、肺表面の細胞にポンプみたいな機能を与えて、量を制御することにしたらしいんです。さらに調べていくと、そのポンプを持っている細胞は全体の5%しかないんです。つまり肺の表面の5%の細胞がテニスコートの広さの水のコントロールをしている。これってすごいことだと思うでしょう?さらにすごいのはたとえば肺の病気で浮腫のようなものができて、水がどんどこしみ出してきちゃったときには、そのポンプは大車輪の活躍をして、表面から水をくみだすんです。じゃあ残りの95%の細胞は何をしているのか、というとこれはこれでガス交換とか栄養交換なんかをしているってわけ。ところで、胎児のころその肺の表面は水(羊水)の中にあるってことは知ってますよね(^^)。その胎児が『おぎゃー』って生まれた瞬間から、その水はいらなくなるわけで、とてつもない量の水をなんとかくみだす必要があることは想像できると思います。そのとてつもない量の処理にどういう仕組をもったかと言うと、さっきの5%の細胞の割合を新生児の時だけ50%までひきあげていることがわかったんです。でもひきあげっぱなしだと、あとあとガス交換に支障をきたすので、生後3日位のうちに45%の細胞がもう一方の形の細胞に変化して、5%と95%に落ち着くんです。生体というのはつくづく不思議だよねえ(^^)。
 話はがらっと変わって。空気中の水蒸気がやがていっぱいになると凝縮を起こして『小さな小さな』水滴になります。自然現象ではそれは雨となって落ちてくるわけですが、その雨滴の大きさになる前の『小さな小さな』水滴のときは、空気中をまだ自由に動けるんです。そうやって動いていくうちに、やがてある確率で同じようにしてできた『小さな小さな』水滴とぶつかって、『ちょっと大きいけどまだ小さな小さな』水滴になるんです。それを繰り返してやがて雨滴になるわけ。でも2つめの『わくわく』はその雨滴になる前の現象にあるんです。『小さな小さな』水滴2つが『ちょっと大きいけどまだ小さな小さな』水滴を作ったとき、どこかに3つめの『小さな小さな』水滴があるでしょう?その3つめの『小さな小さな』水滴は4つめの『小さな小さな』水滴とぶつかるかもしれないし、もしくはできたばかりの『ちょっと大きいけどまだ小さな小さな』水滴とぶつかるかもしれない。もしできたばかりの『ちょっと大きいけどまだ小さな小さな』水滴とぶつかったら、そこで『さらに大きいけどまだ小さな小さな』水滴になるわけで、4つめの『小さな小さな』水滴はいじけているかもしれません。そういうことを予測することはできないだろうか、って考えると難しそうだけど『わくわく』しません?
 実はこれ、研究に興味を持った学部学生と一部の大学院生の前で話した内容の抜粋なんだけれど、こういうことを日頃考えている自分ってやっぱ変なのかなあ?学生には『なんでそんな疑問思いつくの?』って不思議がられたけど(^^;。

(April 19, 2000)
Back to main page