Pharmaceutical Journal 

Pharm. D. Degree

 アメリカの薬学教育は数年前より大きな過渡期を迎えている。現在全米でSchool of Pharmacyに相当する学部は72あると言われているが、そのほとんどすべてでその過渡期に対応すべくカリキュラムが毎年大きく変わってきている。その最大の原因がPharm. D. Degreeである。相当する日本の資格はまだない。それまでのSchool of Pharmacyは通常の自然科学系学部同様、学部卒業後ほとんどが薬剤師となり、一部がPh.D.コースへ進む。つまり通常22才で薬剤師ができあがるのである。そしてPh.D.コースに進んだほとんどは大学に残るか企業へと進む。つまり、病院や薬局にいる薬剤師はたった4年の勉強だけで、医師と対等に渡り歩いて行かねばならないのである。一方アメリカでの医師免許は通常自然科学系学部の卒業のあと、School of Medicineへ入学し、5年をかけてもとれないと言われるとてつもなく大変な資格である。つまり彼らは9年以上の勉強を経て仕事をしているのである。当然その力関係は医師>>薬剤師となる。反面、医薬分業の進むアメリカでは患者に与える薬の具体的なブランド名などまで医師は指定できない。その選択権はかなり薬剤師に委任されている。このような状況を背景に、医師と対等もしくはそれ以上に働けるプロフェッショナルな薬剤師を作るべく、Pharm.D. Degreeを薬剤師とする方向が打ち出された。Pharm.D.コースは、最低2年間の自然科学系学部の履修を入学の条件とし、通常5年かかる。つまり薬剤師は大学院卒後相当資格の免許となり、25才まで一人前の薬剤師になれなくなったのである。結果、薬剤師の実力は大きく躍進し、ヘルスケア全体としては進歩した。しかし今度はPh.D.コースの存続が問題になってきた。というのは、Ph.D.コースがあったとしても、そこへ入学してくる学生のバックグラウンドは薬学ではないのである。当然、教授陣は一から教える必要が生じ、その結果Ph.D.コースの在籍年数が伸びる傾向がでてきたのである。また一つの大学がPharm.D.とPh.Dの2つのコースを持つのはかなりの至難である。当然各々のコースの目的は大きく違う。MCVでは2つのコースを持っているが、Faculty10名、Clinical Faculty20名の多所帯となってしまう。Ph.D.コース在籍は15名で、Pharm.D.コース在籍の200名以上と大きく違う比率となっている。最近多くの大学でどちらかのコース一つだけを持とうとする動きが見られ、特にPh.D.コースの教授陣がサイエンスレベルの低下を危惧している。
 余談であるが、日本でも医師と薬剤師の力関係を補正すべく、薬学部を5ないし6年とすることが数年前論議された。しかしなぜかその後、それは却下されたようである。たしか大学のキャパシティーの問題とかで国立大学を中心に反対にあったと聞く(噂)。つまり厚生省の提案を文部省が反対した格好となる。医薬分業のさほど進んでいない日本では直接その問題にかかわるのは病院及び臨床薬剤師だけである。そのためにカリキュラムまでも変えるようなことは文部省がするとは思えない。なにせ教科書の書き方で10年以上論争を続けているところだから。
 ともかく、このアメリカでの薬学教育体制の将来動向はPh.D.コースに在籍する者にとって自分の将来にも大きく影響することであり、結構よく話題にのぼる。もし卒業したときに、すべての薬学部がPharm.D.コースだけになっていたら、卒後は自動的に企業しかなくなるのである。結構、重大な問題である。でもまだのんきに見ているのが実情だったりもする。

(October 27, 1997)
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