Pharmaceutical Journal 

Monologue Part I

 自国の教育レベルの高さゆえか、サイエンスの場合、同じアジア諸国の中でも日本からの留学生は学部の学生かポスドクに限られると言っても過言ではあるまい。学部学生についてはよくわからないので、ここでは大学院とポスドクに話をしぼることにする。中国、日本、インドを除くアジア諸国からの留学生の殆どは国費留学生であり、卒後帰国を義務づけられている。彼ら/彼女らは国を背負っていることを自覚しており、中には帰国後の職まで保障されている連中もいる。一方、中国はこれでよく政府が嘆かずにいられるな、と思うくらい個人が国を考えていない。殆どが帰国することなど毛頭ないのだから当然と言えば当然である。先日のTHE SCIENTIST誌に掲載された『More foreign PhD recipients plan to stay in the US』の記事の中で、PhD受領者のうちアメリカ滞在希望の割合は中国の85%が他国を完璧に圧倒していた。インドからの留学生も同様でその割合は79%となる。ヨーロッパ諸国の55%前後、韓国の36%と較べると対照的である。さて日本は、と言うと、かの記事にはデータがない。統計に載せるほどいないのであろう。ではポスドクは?データはないがおそらく100%に近い数字で帰国になるのではないかと思う。語学のハンデという点で日本と中国は比較されることが多いが、一般の認識の中にも『中国人=滞在、日本人=帰国』の図式ができあがっているらしい。今となっては聞かれることもほとんどないが、渡米当時は『卒後は帰国するんだね』とよく聞かれた(今では『帰っちゃだめよ』と言われる始末(^^;)。中国人の大学院仲間は聞かれたことがないと言う。したがってアメリカにとって本来利益のあるのは、滞在して国の発展の一助となりうるかもしれない中国人であるはずなのだが、そうは単純にはいかないようである。中国人の多くは科学を求めてでなく、生活を求めて大学院に来る場合が多いためか、時に嫌われるケースがでてきてしまう。先学期新入してきた中国からの大学院生は本国で医師の資格を持っていて、臨床に近い研究をしたいと言っていたが、今学期からなぜかコンピュータメジャーで転学してしまった。奥さんが西海岸でアクセプトされたこともあるが、大学院コミッティの考えを改める原因になったことは明らかである。大学院サイドとしても高い費用で大学院生を維持している分還元してもらわないとビジネスとして困るのである。結果、海外特に中国からの留学生の受け入れの門を狭くするようになったようである。
 さて日本からのポスドクであるが、大抵の場合歓迎される。ただし、しっかりしたコネがある場合。理由は言葉だけではない。言葉は悪いが、短期間の滞在がメインであるため、『論文を書いてもらえばいい』というのが本音らしい。彼らも心得たもので、日本のボスとだけ親密にしておけば関係は保てることは知っており、実際留学してきたポスドクの名前は3年もすれば忘れる。事実、薬理学部のある教授は1年前にいた日本人ポスドクの名前をすでに忘れていた。日本人のポスドクも、帰国するとあとは音沙汰なし、というパターンが殆どらしく、この現象に拍車をかけている。言葉だけでない日本人研究者としての国際化への障害をどの程度の割合が認識しているか疑問だが、本当の留学の価値はそのあとの関係にあるような気がするのは自分だけであろうか?

(February 13, 1999)
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