Pharmaceutical Journal 

Money vs. Science Part I

 欧米のシステムをことごとく輸入してきた日本のサイエンスの中でなじまなかったものの一つにポスドクというシステムがある。正確にはポストドクトラルフェロー(Postdoctoral fellow)である。PhD取得後、自己の研究の幅をさらに磨くため、大学ないし企業にて数年経験を積むのである。当然彼ら/彼女らも生活せねばならず、夫婦でも最低限生活できる程度の給料が支給される。日本の場合、その給料を支給することが難しいため、このシステムは成り立っていない。その代わり、日本でPhD取得後欧米の大学にてこのポスドクとして経験を積むケースがあるというわけである。さてこのポスドクのサラリーであるが、アメリカの場合NIH(National Institute of Health)の基準を採用するケースが多く、1996年では年間$20,292(240万円)となっている。この金額は企業に就職した場合と比較するとかなり低くなり、特に税金を課せられるアメリカ人はあまり好まない。一方、日本の医療機関や大学からの研究者は『留学』というステータスのためもあり、このポスドクを結構利用している、結果、噂によるとNIHには200人近い日本人ポスドクが働いているというし、ファルマシア(日本国内の薬学研究者の雑誌)にもポスドク留学やその帰国の情報が毎号掲載されている。このサラリーが1999年より25%上昇し、$26,256になるという。これでも若い研究者にはそれほど魅力をもたないであろうというのが大方の意見ではあるが、そのシステムすらない日本人研究者にとってはありがたい昇給であろう、、と一見思った。しかしこの話には実はウラがあった。
 日本をはじめとする海外からのポスドクの場合、その滞在のためにビザの取得が必要であり、大抵の場合J-VISA(交換研究者)が使用される。最高は3年であり、厳密には帰国義務のある場合とない場合の2種がある。実は自分もオフィシャルにはポスドクであり、ビザもJ-VISAである(PhDとりにきているポスドクつうのもおもしろいでしょ。)。3年以上の滞在になるとH1-VISAという、いわゆる就労ビザが必要になるが、日本からの研究者の多くは3年以上は自国のポストを手放してはいられないらしい。今回のNIHにおけるポスドクの昇給であるが、その対象は
どうやらアメリカ人とH1-VISAで就労するポスドクを対象としているようである(Personal communication)。つまり日本からJ-VISAで渡米した研究者には今まで通りの$18,000-23,000の給料が支払われることに変わりはないということになる。いわゆる外人部隊にその勢力をとられてはならないという一つの手段という辛口の批評もあるが、逆にJ-VISAでの研究者の獲得に拍車がかかるとの懸念もあり、現状の給料で満足さえできれば、日本人研究者の米国進出にはいい影響を与えるものと考えたりもした。さてこのアメリカの現状をどの程度の日本人研究者がわかっているだろうか。

(March 14, 1999)
Back to main page