Pharmaceutical Journal 

Boutique vs. BigPharm

 アメリカの製薬業界は大別してこの二種類に別れる。BigPharmとはMerck, Glaxo-Wellcome, Pfizerなど、世間的にも知られているいわゆる大企業のことを指す。一方、Boutique Companyとはいわゆるベンチャーの成長、安定したものを意味し、市販薬(OTC)専門のGeneric Companyも含んだ総称である。Advilで有名なWhitehall-Robins、TylenolのMcNeil Consumer Productsもそうであるが、現在は成長しすぎて大企業となってしまったAmgenも昔はBoutique Companyだった。ではBoutique Companyの定義はいったい何であろうか?Boutiqueの語源から類推できるように「ある特定の分野に強く、その分野では大企業よりも優る企業」と言えよう。ベンチャーと異なる部分は必ず『製薬企業』である点である。ベンチャーはある技術をウリにしており、必ずしも製薬に結び付くとは限らない。その点、Boutique Companyは時にBigPharmの資本を使いながら最終的に自分たちの手で『製薬』してしまうのである。したがって、成長すればNASDAQにも入る一流企業にもなるし、Amgenに代表されるようにベンチャーとは言い難いくらいにまで成長することも少なくない。
 BigPharmがUpjohn-Pharmacia, Novartis(Ciba-GeigyとSandoz)などBigPharm同志の合併を余儀なくされている昨今、このBoutique Companyはどの分野でも至って好調である。アメリカの製薬企業は一人の優秀なサイエンティストの能力でその企業の能力を支えるケースが時としてあるが、ここのところそういったサイエンティストのBigPharmからBoutique Companyへの流出が多くなってきた。ひとえに、サイエンティストの欲する研究がBigPharmのそれとは違ってきたからであろう。したがって、ますますBoutique Companyの力は増大し、BigPharmはそこへ頼らざるを得ない状況にまで追いつめられるのである。
 具体的に例を挙げると、Inhaleという吸入剤を専門にするBoutiqueが90年代始めに二人の著名なサイエンティストによって設立された。当時吸入剤の世界は3MとGlaxoの独壇場だった。ところが、その後両BigPharmから一人二人とサイエンティストが抜けて行った。すべてとは言わないが、多くの行き先はInhaleだった。そしてこの7年間でこの世界の勢力地図は大きく塗り変えられ、Inhaleは今やNASDAQ登録の立派な企業であり、BigPharm5社とAlliance提携を結ぶ絶好調のBoutiqueとなっている。ご存じのとおりその間、GalxoはWellcomeと合併し、他分野への展開を謀っているが、LayOffなどの問題が未だ片付いておらず、研究もままならないのが現状である。
 さてこの話題は製薬企業を目指す大学院生の中で、「どちらが将来的に得か?」「どちらが自分を満足させる研究ができるか?」の観点から議論される。もちろん、専門のエコノミストでもないので将来予測なんてできるものではないが、大抵の大学院生はやはりBigPharmを選ぶようである。『よらば大樹の陰』は世界で通用する言葉のようだ。いくらアメリカで終身雇用はなく、特に研究の領域ではヒトの流動が激しいと言われていても、始めから流動することを想定して就職する人間はアメリカでもいないようだ。日本の製薬企業に就職したころ、自分を高く買ってくれるところへはどこでも行く、そして他から買いたいと思うようなサイエンティストになりたいと思ったことはやはり世界的に見ても異常だったようである。しかし異常でだったからこそ、今の自分があるわけで、それはそれで異常な自分に感謝しなくてはいけないのかもしれない。しかし、親を含め周りはいい迷惑である。

(November 10, 1997)
Back to main page