Monologue on a Fine Day 

Japanese English

 今でもたまに悩まされるのはこのJapanese Englishである。発音が少しでも違うとわからんちんのアメリカ人にとって、日本人が日本語としているこれらの英語は当然伝わるわけもない。サイエンスの世界ではカタカナの使用頻度が多いことからもわかるように、この弊害が渡米当時の自分にもしばしば見られた。たとえば、「エーテル」。こちらでは「イーサー」となる。「エチルアルコール」は「イーサイルアルコホール」。「ジエチルエーテル」に至っては「ディイーサイルイーサー」となる。組織固定、染色に使われる「キシレン」、これは「ザイリーン」。数え上げればきりがない。やっかいなのは「リポソーム」とか「リガンド」の類。ヒトによっては「ライポソーム」、「ライガンド」と言わないと伝わらない。どうやらイギリス英語とアメリカ英語の差に起因するらしいことが最近わかった。あと英語と信じて使っていると痛い目にあうときもある。高圧のガスが封入されている「ボンベ」。こちらでは「シリンダー」になる。最初「ボンベが買いたい」とポスドクに言ったら、「それはインドの都市(ボンベイ)か?」と笑われた。あとは「チューブ」。別に前田君のことではない。ディスポのプラスティックの試験管のこともさせば、タイゴンなどに代表される管のときもある。多少話は細かくなるが、イントネーションも大きな問題となる。NYの「マンハッタン」は「マンハッタン」だし、DCの「ポトマック川」は「ポトーマック川」と言わないと通じない。特に疲れているときは、いいかげん嫌になってしゃべるのをやめてしまうときもある。
 しかし最近、いわゆるEnglish Japaneseにも弊害が見つかった。こちらでも「豆腐」、「照焼」、「布団」はそのまま英語として使われるが、これが日本語風にしゃべると伝わらない。「ト
オーフ」、「テリヤーキ」、「フートン」としないと伝わらないのである。先日布団の値段が知りたくて、看板に「FUTON」とある店に入った。「布団はあるか?」と聞くと、「何だそれ?」と言う。「看板に書いてあるやつ」と答えると、「それはフートンだ」と直された。アメリカに来て、母国語の発音まで直されるとは、、。なんか納得のいかない悔しさがでてくる。「これはもともと日本語何だぞお〜」と思ったところで、どこへ行っても英語で話そうとするアメリカ人にそんなことがわかるわけがない。つい、行きどころのない悔しさを「これはもともと日本語で本当の発音は布団なんだぞー」って店員にぶつけてしまった。別に声を荒げたわけではなかったが、その店員はなんと「ごめんね」と言ってきた。なんか悪いことしたような気もする。そんなわけでこれではいけない、せめて自分の周りだけでも、と思ってラボの人間の発音とかイントネーションをかたっぱしから訂正して回ったが、よくよく考えて見ると彼らが日本にいくわけでもなく、普段の生活でかえって困るだろうと思って、やめにした。まったく疲れる国である。でも逆に考えてみると、本来の発音を勝手に変えて使っている日本人も悪いのではないかとも思うが、、。
 余談ではあるが、中国ではもっとすごかった。人の名前も全部中国風に発音してしまうのである。日本では「ジュリアロバーツ」も「ロバートデニーロ」もそのままの発音だが、中国ではまるで中国人のような発音になってしまうのである。したがって、中国からの留学生は「ジュリアロバーツ」と言う名前は知らず、中国語の発音の女優として彼女を認識しているとのことだ。かわいそうなのは「マイケルチャン」。オリジナルは中国人の彼の話をしても、中国人のなかでは彼は「マイケルチャン」ではないのである。あんなに世界的に有名なのに、、。 

(November 8, 1997)
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